いよいよ、待ちに待った金庫の中身とご対面

うちには先祖代々から伝わる金庫がある。ぼろくて重くて誰も動かすことができない。しかもその鍵を紛失してしまったため、鍵を開けることができない。そんな金庫、今まで何人もの鍵師にお願いして開けようとしたけれど、かなり複雑な金庫のようで、結局開かずのままだった。開けることができない金庫なんて、ただの鉄の塊である。かと言ってそのまま廃棄してしまうのも惜しい。そんなわけでその金庫、ずっと我が家に地縛霊のようにそこに佇んでいたのだけど…。

ある日テレビを見ていたら、カリスマ鍵師みたいな人が出ていて、様々な金庫を開けるという企画をやっていた。どんな鍵師にも開けられなかった金庫でも、その鍵師なら開けることができるのだという。私達家族はまるで神様を見つけたような気持ちになった。開かない金庫があるお宅募集中とあったけれど、さすがにテレビで公開されるのは恥ずかしいので個人的にそのカリスマ鍵師にお願いすることにしたのだった。

数週間後、その鍵師が我が家にやってきた。その鍵師は少し金庫を触っただけで、「これはねー、かなり時間がかかるけどいいですか?」と言ってきた。その鍵師の言う通り、金庫を開けるのは難解だったようで、「どうぞ、開けてみてください」とその鍵師が言うまで数時間かかってしまった。だけどこれでようやく、積年の謎が解けるのだ。一体中には何が入っているのだろう…。父が緊張の面持ちで扉に手をかけ、力を込めた。するとギギギ…と嫌な音を立てて、いよいよ、待ちに待った金庫の中身とご対面…になるはずだった。

中身は、3割くらいは予想していたけれど、空っぽだった…。「まあ、よくあることなんですけどねー」とがっかり感が漂う中で鍵師は言った。お宝が入ってるんじゃ…という私たちの期待虚しく、結局その金庫は業者さんにお願いして廃棄してもらうことになったのだった。世の中そんなにうまい話は転がっていないものである。